【主任】BV事業部大変みたいですねぇ。
【課長】まぁね。でも今は大変じゃない事業部のほうが珍しいけどね。
生産拠点の集約をやるらしいですよ。
もっと早くにやっとけばよかったのにね。
追い込まれないと意思決定を行わないのはいつものことですけどね。
追い込まれてから何かやろうとするから有効な選択肢がなくなって来るんだけどねぇ...
でも選ぶのは簡単ですから...ところでこのとんでもない不況はいつまで続くんですかねぇ?
3年か5年か10年か...
じゅっ10年って...会社勤め40年のうちの10年が未曾有の不況ですか...
主任さん バブル後の『失われた10年』のときもかすってんじゃないの?
ぐわぁ〜
そんなことより、会社が持てばいいけどねぇ。
怖いこと言わないでくださいよ。
会社に倒産のリスクがあるのは当たり前のことなんだし、そんなもんだと思って仕事するしかないと思うけどね。戦争が始まったり、宇宙人が攻めて来たりしたわけじゃないんだし。
ここに鳥インフルエンザが流行ったらと思うと、気を失いそうになりますね。
いろいろ考えるんだねぇ。
そう言えば、こんな状況でも投資しようという剛毅な事業部長さんがいらっしゃいます。
へぇ〜。どんな案件?
KE事業関連の技術ライセンス獲得の案件なんですけど...
何か?問題あるの?
ヴァリュエーションを行ったんですけど、あまりいい結果じゃないんですよねぇ。
DCF?
そうですよ。ただリスクを取り扱えるモデルを作って、いろんなシナリオを検討してます。
それなら仕方ないんじゃないの? 事業部長はなんて?
リアルオプションの考え方で評価してくれって言ってます。
また ややこしいことを...
どういうことですか?
この意思決定をすることによって得られる新しい投資機会についても、価値を見積もって評価するっていうことだよ。
この技術ライセンスを獲得することによって得られる価値はすべてリスクつきで評価しましたよ。
もちろんそれは評価するんだけど、このライセンスを手に入れることによって得られる、投資をする権利の価値までも見積もるってことだよ。権利を持っているだけだから、リスクがダウンサイドに振れたときには権利を行使しなくてもいいんだけどね。
そんなことに価値があるんですかね?
ダウンサイドのリスクをカットできるんだから、期待値が上がる分の価値があることになるよね。
我が社の経営陣はこういう感覚を持っているんですか?
あんた何気に失礼だね。さすがに感覚的には理解できてると思うよ。多分...ただ、価値を定量化するためにブラック=ショールズモデルなんか使い始めると、感覚と乖離してしまうから、ふ〜んって感じになるんだよね。
我々のレベルではリアルオプションの定量評価はやりようがないと?
本読みながら計算すればできないことはないけど、経営者の感覚に届かないと意思決定につながらないからね。本を見ながら計算した数字を鵜呑みにして意思決定する経営トップはいないと思うよ。
個人的にはリアルオプションの考え方自身がピンと来ないんですけどねぇ。
...例えばね、主任さん先月、クリスマスシーズンを前にポールスミスのスーツに投資したでしょ...あれは...
な、何を言ってんですか!?
あの投資の投資対効果を定量化する場合....
何を言ってるんですかっ? あれは投資なんかじゃありません、単なる消費です!
でも、リターンを期待してるでしょ?
...もう期待していません...
...また今年も回収できなかったんだ...
ほっといてくださいっ!